書評『小説家という職業』

小説家という職業
いつものように本屋さんで立ち読みしていると、自分にとってとても気になるタイトルの本が、三冊も並んで置いてありました。

たいていの場合は、気になるタイトルの本を一冊見つけるにも時間がかかるのに、その日に限っては三冊も「獲物」を見つけてしまいました。

しかし、三冊いっぺんに買っても一冊ずつしか読めないので、確実に「積読」状態が発生してしまいます。

どんなに興味があっても、「積読」だけは避けたいので、一冊だけ買うことに決めました。

私が手に取ったのは、『小説家という職業』という本です。

ちなみに、この三冊はすべて森博嗣さんの本で、三部作として作られた作品のようです。

実はこの本を読むまで、私は森博嗣さんを知りませんでした。

作品の『すべてがFになる』や『スカイ・クロラ』は知っていたのですが、作者のことまでは知りませんでした。

森博嗣さんは『すべてがFになる』でデビューしてから、多くの作品を執筆し、多くのファンを持つ小説家です。

そんな森さんが、どのようなスタンスで小説を作っていったのか、小説家とはどうあるべきか、について包み隠さず書いたのが、この『小説家という職業』です。

『小説家という職業』の目次
1章 小説家になった経緯と戦略
2章 小説家になったあとの心構え
3章 出版界の問題と将来
4章 創作というビジネスの展望
5章 小説執筆のディテール

「小説家という職業」というタイトルですが、この本の中には、物語の書き方や、登場人物の表現方法といった、いわゆる小説家に必要なテクニックは書いてありません。

この本で紹介しているのは、小説家・森博嗣の「スタイル」が記されています。

森博嗣さんが小説・創作に対して、どのように向き合っているか、という内容です。

多くの場合、小説が好きで、小説家に憧れて、小説家になることを決心すると思うのですが、それでは小説家になること自体が「ゴール」になってしまいます。

小説で生活しようと思っているならば、自分が売ろうとしている「商品」としての小説を、もっと冷静に見つめる必要があると考えているようです。

実は森さんは、小説が大好きというわけではないそうです。

あまり小説が好き過ぎると、思い入れが強すぎてうまく作れないこともあると思うのですが、たいして小説が好きではないからこそ、冷静に小説の構成を作っていけるということもあるようです。

私自身の話をしますと、非常にプログラミングが大好きで、あわよくばプログラミングで人気者になりたいとか考えがちです。(正直に言いますと。)

ただ、そんなことでは目的がブレると言いますか、もっと森さんのように自分の商品に対して、冷静な目で見る必要があるのかな、と感じました。

また、個人的には「小説家」と「デベロッパー」には、文字を書いて作品を作るという点で共通点を感じ、クリエイターとしての森さんの意見に大変興味を持つことができました。

この本を通じて、森博嗣さんに多くの気になることをインタビューできたような気分です。

ただ、森さんの作品を読んだことがある人が、この本を読ん場合、もしかすると彼の作品の扱い方と、歯に衣着せぬ物言いに、不快感を感じる方もいるのかもしれません。(笑)

また、出版社と小説家がどのようなやりとりをしたのか、出版業界の舞台裏についても語っています。

それから、最近の出版業界では電子書籍化の流行で、大きな節目を迎えていると思うのですが、出版業界の未来についても述べられています。

私はこの本を読むことで、森博嗣さんの考えを知ることができ、とても有意義でした。

もし、この本を購入しようと思っているのならば、本の最初の部分だけ立ち読みすることをお勧めします。

というのも、この本の最初に「結論」が書いてあるからです。(笑)